「躾」とは一体なにか?ADFEST 2015のFABULOUS FOURに選ばれた監督の作品から学べること
2015/05/28

毎年春にタイのパタヤで開催されるアジア最大級の広告祭であるADFEST(アジア太平洋国際広告祭)。
2015年のADFESTは3月19日から21日の3日間にわたり開催されました。アジア各国から期待の若手監督4名が選ばれる「FABULOUS FOUR」では日本人が2名も選出されることになりました。
そのなかのお一人、小田桐浩希監督の作品「躾」を紹介します。
ADFEST 2015 home discipline

縁側で将棋に興じる親子の姿から物語がはじまります ー

お父さんは陶芸家のようで、黙々と作業をしています。

するとそこへ、子どもが入ってきます。

しかし、「仕事場に勝手に入ってくるな!」と言わんばかりに力強く子どもを外へ追いやります。
こうして父と子の姿が描かれていきます。

銭湯で掛け算をする子ども。キリの良いところでお風呂から出ようとしますが ー

「まだだ」という無言の言葉を力に変えて肩をグッと掴みます。子どもは再び熱いであろうお湯のなかへ身を潜らせることになります。

食卓の風景。
肘をつきながらねぶり箸をする子どもの箸を ー

荒々しく取り上げ、ピシっとテーブルの上に置きます。

正座をさせられる子ども・・・脚がしびれているのかモジモジしています。

窮屈であろうが、厳しいお父さんの手前、我慢するしかありません。
そんなある日、事件が起こります。

お父さんの焼いた皿を割ってしまうのです!
あんなにコワいお父さん、バレてしまったら・・・そして子どもが出した答え。

割れた皿を埋めようと考えたのです。

・・・!
そのコワいお父さんが後ろに立っています!

お父さんに突き飛ばされよろめく子ども。こっぴどく叱られているようです・・・

家から追い出され・・・

落ち込んでいると、そこには優しいお母さん。
お父さんがこわいときはお母さんが優しくて、お母さんが怒っているときはお父さんが優しくて・・・なんとも言い難い「家族あるある」、絶妙な家族のパワーバランスが表現されています。

再び、縁側で将棋をする親子。少し成長しているようです。

お父さんが駒を上げると、どこに指すか悩み・・・

手詰まったのか、同じマスへと駒を置きます。

そこで、場面は変わり、100点の答案用紙を手にする子どもの姿が ー

ウキウキ気分で家に帰ると、お母さんは「よくやったわね!」と褒めているようです。そして、お父さんも・・・

頭をポンと撫でてくれます。
子どもにとって、何も言わずとも頭を撫でられるだけで嬉しいものですよね。

子どもはさらに成長し、大学の試験日の朝。そこにお父さんの姿はありません。

お父さんは作業場に。それでも・・・

その手には御守が。お父さんの不器用さがうまく表現されています。

すっかり大人になった子どもが帰郷します。

そして、お父さんの作業場で陶芸をします。過去の思い出が次々とオーバーラップしていきます。

そして、縁側に舞台は移り、将棋盤を前に対峙する親子の姿 ー

子どもは駒を手に取り ー

「王手!」と声高に言います。

頭の上に差し伸べられる大きな手のひら。

ニコーっと笑う、嬉しそうな子どもの表情。

すると、そこにはかつて子どもだった少年が立派なお父さんになっている姿があったのです。
躾は「まなざし」から、まなざしは「愛」から生まれるということ
この「躾」という作品はADFEST 2015のテーマである”BE BAD(悪くなれ)”をもとにつくられたものです。
ADFESTはアジアとオセアニア地域の国々を網羅した広告祭のため、宗教や文化、政治体制とバックグラウンドが異なる多くの人たちに上映され、またその人たちによって評価されることになります。
「躾」では、日本家屋が舞台になっていたり、食べるものが魚中心の和食であったり、将棋や陶芸、家族のあり方(威厳のある父と物静かな母)など、所謂、日本文化のステレオタイプが表現され、国際舞台において「日本」のイメージを訴求できたのではないかと感じます。
Wikipediaによると、躾には次の記載があります。
しつけ(躾・仕付けまたは仕付)とは、人間社会・集団の規範、規律や礼儀作法など慣習に合った立ち振る舞い(規範の内面化)ができるように、訓練すること。概念的には伝統的な子供への誉め方や罰し方も含む。
躾という言葉を聞くと、ある言葉が想起されます。
それはまなざしです。
親が子どもをみるまなざし、先生が生徒をみるまなざし、友達が友達をみるまなざし、世間が人間をみるまなざし、そして自分が自分をみるまなざし。
このまなざしがあるからこそ、人間社会における規範、規律、礼儀作法が生まれ、それに基づいて行動する必要がでてくるのだと思います。
「お天道様はいつでも見ているからね」と子どもを戒める言葉も、まなざしを意識させるものですよね。
このまなざしがなければ、なにも正座してご飯を食べなくてもいいわけですし、肘をつきながらご飯を食べたっていいわけです。
また、まなざしがあっても、「自分さえよければいい」と開き直ることさえできます。「なんでこんなことしなくちゃならないんだよ」と。「関係ないじゃん、まわりの人間なんか」と。
社会に出れば多くのまなざしがあります。だからこそ、ルールやマナーを守らなければならなくなるのです。しかし、悲しいかな、そんなルールやマナーはあるようでないものなのです。存在は確かなのだけれど、会うことができない歴史上の人物のような・・・(わかりづらい例え?)。「これはこうだ」と証明できないものです。
だからこそ、最もしっかりと持つべきまなざしは自分が自分をみるまなざしなのです。
この「躾」という作品では、お父さんが子どもをよく見ています。それは視覚的なものだけでなく、心の模様までも見つめているようです。
この親子の姿を見ていると、躾はまなざしから生まれ、そのまなざしは愛から生まれているということに気付かされます。そして、躾と名づけられた愛のバトンはまた次の世代へと受け継がれていきます。
この社会で生きていくために必要な行動規範は誰かを思いやろうとする愛が必要になると思うのです。
そんなことをこの作品から学び取ることができるのではないでしょうか。
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